初優勝を目指す羽生結弦(25=ANA)がSP世界最高得点をたたき出し、首位に立った。2連覇を果たした18年平昌五輪以来、721日ぶりに演じた「バラード第1番」。111・82点を記録し、自ら持つ110・53点の世界最高を更新した。

「バラード第1番の中で一番良かった。最後まで1つの気持ちの流れみたいなものを、最後の音が終わるまで、手を下ろすまで、つなげられた。心地よかった。できれば112点いけるようにと思っていた。感覚も全て良かった。あと0・2点というのは誤差というか、ついたり、つかなったりする点数だと思う」

「伝説のプログラム」が戻ってきた。美しいピアノの旋律に動きをとけ込ませ、冒頭の4回転サルコーを成功。4回転-3回転の連続トーループも着氷させると、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)まできっちりとまとめた。演技を終えると、総立ちの観衆に笑顔を見せた。

2日前の5日。公式練習で「バラード第1番」を披露した。

「すごく緊張したと同時にあらためて、このプログラムを滑る覚悟をさせられました」

五輪後の18~19年シーズンからSPは「秋によせて」を滑ってきた。尊敬するジョニー・ウィアー氏の代表作。小学生の頃から憧れ、繰り返しビデオを見て、その美しい所作をまねしてきた。今季途中でプログラム変更を決断したのは、はっきりとした理由があった。

「自分の演技として完成できないと思ってしまって。自分の中で苦しくなっていました。2人の背中という理想が高いゆえに…。『バラード第1番』も『(フリーで滑る)SEIMEI』も、伝説として語り継がれるような記録を持ってしまった子たち。できれば寝かせてあげたかった。でも、力を借りた時、ものすごく『自分でいられるな』と。もう少しだけ、この子たちの力を借りてもいいかなって」

フリーは9日。「自分」を求める旅は続く。